今回、奈良女子高等学校のデザイン専攻クラスから「デザインの現場を学びたい」というご相談をいただき、SIORUとして授業に関わらせていただくことになりました。
テーマに選んだのは「まこも」という植物。古くから日本の神事にも用いられてきたこの素材を使ったお茶のパッケージを、生徒たちがゼロから考え、デザインする授業として設計しました。
授業は全3回。まずデザインの考え方を学び、次に実際の栽培現場へ足を運んで生産者の話を聞き、最後に自分なりの解釈をデザインとして形にしていく、という流れで進みました。
単なる課題制作ではなく、デザインが社会とつながる瞬間までを体験できたこのプロジェクト。
この記事では、3回の授業の記録をレポートします。
高校生と取り組む、実践型デザインプロジェクト
今回のプロジェクトは、奈良女子高等学校のデザイン専攻クラスとSIORUが連携し、実際のデザイン制作に取り組む実践型の授業です。
講師は、SIORUデザイン顧問の上浦智宏氏。
これまで数多くのデザインを手がけてきた実務経験をもとに、「0からデザインを生み出す考え方」や「生産者から社会へ価値を届けるデザインのあり方」について、全3回にわたって授業を行いました。
初回の授業では、デザインの考え方について学び、2回目の授業では、生産者の現場を見学。
3回目の授業では、それぞれが考えたデザイン案を制作し、フィードバックを行いました。


デザインは「つくる」ではなく「伝える」から始まる
今回の授業では、「まこも」という植物をテーマに、その商品パッケージをデザインするプロジェクトに取り組みました。
講師である上浦氏の実家が「まこも」を栽培しており、そこで販売している実際の商品をデザインすることをゴールとしました。
単に架空の商品を考えるのではなく、実際に存在する素材と生産者をもとにデザインを考えることで、よりリアルな視点を持ってもらうことが目的です。
生産者がどんな想いで育てているのか。
その価値は、誰にとって魅力になるのか。
どんな形で伝えれば、きちんと届くのか。
そういった問いに向き合いながら、「価値を伝える」ことを軸にデザインを考える。
そのプロセス自体を体験してもらうことが、今回のテーマです。
日本文化とつながる「まこも」という素材
今回のデザインテーマとなった「まこも」は、あまり日常的に馴染みのある植物ではないかもしれません。
しかし実は、日本の文化や歴史と深く関わっている植物のひとつです。


まこも(真菰)は、古くから神事や祭事に使われてきた植物で、特にしめ縄の材料として知られています。
神社で見かけるしめ縄に使われており、「清め」や「神聖な場をつくる」役割を担ってきました。
その象徴的な例が、出雲大社です。
日本を代表する神社のひとつである出雲大社でも、まこもを用いたしめ縄が使われており、日本人の精神文化と密接に結びついている存在であることが分かります。
つまり、まこもは単なる植物ではなく、「場を整える」「空間を清める」といった意味を持つ、非常に象徴性の高い素材なのです。
また今回のプロジェクトでは、まこもの葉を活用した商品として、「マコモ茶」のパッケージデザインを作ることをゴールと設定しました。
この素材が持つ背景や意味をどこまで理解し、どのように解釈し、誰に向けて伝えるのか。その問いに向き合うことこそが、今回のパッケージデザインの出発点となりました。
【初回授業】自分の感覚を信じることからデザインは始まる
2025年5月、初回の授業は、実際に活動している上浦氏のデザイン事務所にて行いました。
まずはこれまでのデザイン事例を紹介しながら、「デザインとは何か」という考え方の共有からスタートしました。


多くの人がデザインと聞くと、「かっこいい」「おしゃれ」といった見た目の印象を思い浮かべます。
しかし実際の現場では、それ以上に「どう見られるか」「どんな価値として伝わるか」を設計することが重要になります。
そのため今回の授業では、いきなり正解を求めるのではなく、まずは“感覚をひらく”ことを目的に、色を使ったワークを取り入れました。
自由に色を組み合わせ、自分の好きや違和感を言葉にしていく。
一見遊びのようなこの時間こそが、自分の内側にある感覚と向き合う入り口になります。


デザインは、与えられた答えを探すものではなく、自分なりの解釈を形にするものです。
その最初の一歩として、「好き」「楽しい」「なんとなく良い」という感覚を肯定することを大切にしました。
授業の後半では、生徒たちがこれまでに描いてきた作品やデザインを見せてもらう時間を設けました。
その中で、ひとつ印象的な出来事がありました。
ある生徒が、自分の作品を見せる際にこう言ったのです。
「見なくていいです!デザイナーさんの目が腐ります!」
おそらく謙遜のつもりだったと思います。
しかし、その言葉には単なる遠慮以上のものが含まれているように感じました。
自分の好きや、自分が作ったものに対して、自信が持てていない。
むしろ、否定することが当たり前になってしまっている。
その言葉を聞いて、自分の感覚を信じることの難しさを、あらためて感じました。
だからこそ、このプロジェクトでは「うまく作ること」よりも先に、
“自分の感覚を信じること”を体験してもらう必要があると感じたのです。
【2回目の授業】デザインの源泉は現場にある
2回目の授業では、実際に山添村のまこも栽培の現場を訪れました。
教室の中で情報として知るだけでなく、実際にその場所に立ち、空気を感じ、生産者の話を聞く。
この体験こそが、デザインの土台になると考えています。
現地では、まこもがどのように育てられているのか、どんな想いで栽培されているのかを直接伺いました。
手間や時間、自然との向き合い方、そしてそこに込められている価値。


また、実際にその場に立つことでしか分からない感覚も多くあります。
風の匂い、土の質感、空気の静けさ。
そういった五感で感じたものは、単なる情報とは違い、記憶として深く残ります。
デザインは机の上だけで完結するものではありません。
むしろ、その前段階にある「どれだけ対象を理解しているか」が、最終的なアウトプットの質を大きく左右します。
生産者の想いをどう受け取り、どの部分に価値を見出すのか。
そしてそれを、誰に向けて、どのように伝えるのか。
この現場体験は、単なる見学ではなく、「デザインの源泉に触れる時間」だったと感じています。
【3回目の授業:フィードバック】それぞれの思考を整理する時間
3回目の授業では、生徒たちが制作したパッケージデザインに対してフィードバックを行いました。
ここで大切にしたのは、「良い・悪い」を評価することではありません。
今回のフィードバックの目的は、みんながそれぞれ難しく考えてしまっていることを、少しシンプルに捉え直すことでした。


実際に見ていると、生徒たちの反応や進み方は、様々でした。
① 現場から刺激を受けて、デザインを楽しめている生徒
ひとつ目は、実際に現地を訪れたことでインスピレーションが湧き、楽しみながらデザインに向き合えていた生徒です。
たとえば、パッケージの底面に根っこを描いていた生徒や、現地で少し話題に上がった稲荷神社の要素をモチーフとして自然に取り入れていた生徒がいました。
こうした表現は、実際にその場を見て、感じたことが自分の中で膨らみ、デザインに変換されていたからこそ生まれたものだと思います。
現場に足を運ぶことでしか得られない感覚があり、それがそのまま発想の源になっていました。その意味で、今回の体験がしっかりデザインにつながっていたことを感じました。
② 絵が好きなのに、自分の色をデザインに出しきれない生徒
ふたつ目は、本来は絵を描くことが好きで、自分なりの表現を持っているにもかかわらず、それをデザインの中に出しきれない生徒です。
「お茶のパッケージだからこうあるべき」と考えすぎることで、無意識に無難な方向へ寄ってしまい、自分らしさを抑えてしまっているように見える場面がありました。
自分の好きなものや、自分の感覚を入れたデザインをつくって、それを否定されたくない。そう感じる気持ちは、とてもよく分かります。
ただ、そこで怖くなってしまうと、自分の表現はなかなか前に進みません。
デザインは、整えることも大事ですが、それ以上に「自分が何を感じて、何をどう表現したいのか」を出していくことが大切です。
今回のフィードバックでは、うまくまとめることよりも、自分の好きや感覚を、もう少し素直に出してみてほしい、ということを伝えました。
③ 難しく考えすぎて、一歩目が踏み出せない生徒
三つ目は、考えすぎるあまり、なかなかデザインの最初の一歩が踏み出せない生徒です。
人によっては、まったくアイデアが思い浮かばず、手が止まってしまっている場面もありました。ただ、そういう場合も、発想力がないということではなく、考えることが複雑になりすぎているだけだったりします。
そこでこちらから、
「何を見てどう感じたのか」
「それを誰にどう伝えたいのか」
というヒントを渡していくと、少しずつ思考が整理され、自然と手が動き始める生徒もいました。
デザインは、難しく考えれば良いものができるわけではありません。むしろ、自分の感じたことを整理して、シンプルに捉え直すことで、ようやく形にできることも多いのだと思います。
評価されることよりも、「自分なりの答えを導き出すこと」を大切に
今回のフィードバックを通して、あらためて感じたことがあります。それは、生徒によってつまずくポイントは違っていても、その背景には共通する難しさがあるということです。
現場で得た刺激をそのまま素直に表現できる生徒もいれば、
自分の好きなものを持っていても、それを出すことに迷ってしまう生徒もいる。
また、考えすぎるあまり、最初の一歩がなかなか踏み出せない生徒もいました。
その違いはあっても、根本にあるのは、
「自分が感じたことを、どう形にすればいいのか分からない」という戸惑いなのだと思います。
今は、正解を出すことや、間違えないことに慣れている人が多い時代です。
だからこそ、何かをつくるときにも、「これで合っているのか」「変だと思われないか」と、先に不安が立ってしまうことがあります。
デザインの本質は、見た目を美しく整えることだけにあるわけではありません。
大切なのは、自分の中にある感覚や違和感、伝えたい思いをきちんと受け止め、それを相手や社会に届く形へと整理していくことです。
今回の取り組みが、生徒たちにとって「自分の感じたことを、そのまま出してみてもいい」
と思えるきっかけになっていれば嬉しく思います。
デザインが社会とつながる瞬間。パッケージデザインの完成
そうして、それぞれが自分なりに考え、形にしたアイデアは、実際のデザインとして完成していきました。
今回のプロジェクトでは、考えて終わるのではなく、制作したものを実際に社会へ届けるところまで取り組むことができました。生徒たちの視点や解釈から生まれたデザインは、「まこも」という素材の新たな魅力を表現するものになっていたと感じます。





マコモ茶のパッケージデザインについては、真菰をテーマにしたイベントで全て展示されました。
デザインを“つくる”だけでなく、“見てもらう・伝える”場まで含めて体験することで、デザインが社会と接続されるプロセスを実感してもらうことができました。
さらに、マコモダケについては、ワンポイントのシールデザインを制作し、実際に商品に貼付して販売まで行いました。販売は地域の直売所である「旬の駅」にて実施され、自分たちのデザインが商品として手に取られるという、リアルな体験につながりました。
今回の取り組みは、アイデアを形にするだけで終わらず、実際に社会に届けるところまで踏み込んだプロジェクトとなりました。
まとめ デザインを通して、社会とつながるということ
奈良女子高等学校のデザイン専攻クラスとの今回のプロジェクトは、
生徒たちにとってはもちろん、私たちにとっても非常に価値のある時間となりました。
実際の現場に触れ、自分の感覚と向き合い、それをかたちにしていくプロセス。
その中で、「好きなことが仕事につながる」という実感を、少しでも持ってもらえていたら嬉しく思います。
また、今回のような取り組みは、
教育と社会をつなぐひとつの可能性でもあると感じています。
教室の中だけでは得られない体験や視点を、
実際のプロジェクトを通して届けていくこと。
それによって、自分の未来を考えるきっかけが生まれるのであれば、
そこには大きな意味があります。
SIORUとしても、今後こうした取り組みを継続しながら、
デザインを通じて人と社会をつなぐ活動を広げていきたいと考えています。
そしていつか、今回関わってくれた生徒たちが、
それぞれの形で社会とつながり、自分の価値を発揮していくことを願っています。
今回ご一緒した奈良女子高等学校への感謝

今回、このような機会をご一緒させていただいた奈良女子高等学校の皆さまには、心より感謝申し上げます。
今回の取り組みを通して感じたのは、奈良女子高等学校が、ただ知識を学ぶだけではなく、
「これからの時代に本当に必要な学びとは何か」を丁寧に考えながら教育に向き合っている学校だということです。
公式サイトでも、一人ひとりの個性や背景を尊重する「ウェルビーイングな教育」、自ら問いを立てて考える「探究学習」、そして実際の体験を通して学びを深める「体験学習」を大切にしていることが掲げられており、今回のプロジェクトも、まさにその姿勢の延長線上にあるものだったと感じています。
正解を覚えることだけではなく、
自分で考えること。
実際に見て、感じること。
そして、自分なりの答えを形にしてみること。
そうした経験は、これから先の進路や仕事、そして人生そのものを考えていく上でも、大きな力になっていくはずです。
本当に将来に役立つ教育とは何なのか。
その問いに対して、試行錯誤しながら一歩ずつ実践を重ねている姿勢に、私たち自身も強く共感しました。
今回のような取り組みを一緒につくることができたことを、とても嬉しく思っています。
奈良女子高等学校の皆さま、貴重な機会を本当にありがとうございました。
